娘の中学受験
私の娘、楓は12歳。来年の春から中学生になります。
反抗期が感じられることも少しずつ増えてきたけれど、私にも主人にも思いやりをもって接してくれる、心の優しい女の子です。
そんな楓は今、初めて自分の進路に向かって挑戦しています。
そう、中学受験を控えているのです。
一年前、「地元の公立中学に進んでもいいんじゃない?」と諭す私に、
「自分の力を試してみたいんだ」
と真っすぐな目で答えた楓は、既に意志を強く決めているようでした。
それからというもの、家と学校、塾を往復して、毎日机にかじりつくように勉強に励んできた楓。

合格できてもできなくても、春には楓に何かプレゼントを贈りたいな。
今の楓には何がぴったりだろうか……と、私は考えていました。
娘へのプレゼント探し
試験日当日、受験票や持ち物を確認して、「頑張ってくる!」と意気込む楓を笑顔で見送った私は、デパートへプレゼントを探しに出かけました。

今頃試験が始まったあたりだろうか。
一生懸命頑張ってきた楓を労ってあげたい……。
そんな想いを胸に、楓が最近欲しがっていたものはなかっただろうかと記憶を巡らせます。
ふと、あるシーンが思い出されました。
「お母さんのそのお財布、かわいいよね。ずっといいなぁって思ってたんだ。」
それは、楓と一緒に買い物に出かけた際、レジで財布を取り出したときのことでした。
数年前の誕生日に主人に買ってもらった、coachのフローラルプリントの長財布。
ブランド物は楓には少し早いかもしれないけれど、プレゼントにはぴったりだし、長く使ってもらえるかもしれない。
喜ぶ楓の顔が見たくて、私はcoachのお店へと足を速めました。
合格発表…頑張った娘へ、母からのプレゼント
ついに、合格発表の日がやってきました。
試験から帰宅した日は「できることはやり切った!」と笑顔だった楓も、日が経つにつれて、
「大丈夫かな……落ちてたらどうしよう」
とソワソワ不安気な様子です。
「大丈夫だよ。楓は立派に頑張ったじゃない。合格でも不合格でも、努力したことは変わらないよ」
私は、心許なさそうに下を向く楓の頭を優しく撫でました。
「そうだ、この一年間頑張ってきた楓に、お母さんからプレゼントがあるの」
「え? 今?」
びっくりする楓に、私は奥の部屋のクローゼットからプレゼントを取り出し、渡しました。

「なんだろう……」と呟きながらリボンを紐解いてボックスを開けた楓は、嬉しい悲鳴を上げました。
「これ!お母さんとお揃いのお財布! パスケースまで!!」
そう、楓が羨ましがっていたcoachのフローラルプリント。
楓には、使いやすいように折り畳みのお財布を選びました。
そして、少し奮発して、同じフローラルプリントで鍵も収納できるパスケースを沿えて。
「お財布だけにしようかと思ったんだけれど、これから電車通学になったらパスケースも必要になると思って。奮発しちゃったよ!」
「お母さん、本当にありがとう! 私、まだ合格できたかどうか分からないのに!」
さっきまでの暗い面持ちが一気に明るくなって、その素直さに私は微笑ましくなりました。
「楓が本気でやり遂げたんだもの、お母さんは合格を信じてるよ。
でももしダメだとしても、本当に大切なのは、合否の結果じゃない。
楓が自分で受験を決めて努力したことを、お母さんはたくさん褒めたい。
偉かったね。これは楓への努力賞だよ」
楓は、少し涙ぐみながら、「ありがとう……」と私を見つめました。
ピンポーンと玄関のチャイムが鳴ったのは、そのときのこと。
書留郵便で届く、合格発表通知。
私たちは目を合わせて、二人して頷きました。
玄関へ走る楓。玄関のドアが閉まり、封筒を開ける音。
「お母さーん!!!」
家中に明るく突き抜けたその声は、顔を見るまでもなく、楓の合格を知らせるものでした。
中学入学、新しい季節の始まり

「行ってきまーす!」
四月になり、楓は合格した中学校へ楽しそうに通う日々が続いています。
電車で30分の距離にある学校への通学も、新しくできた友達が近所と分かって、毎日待ち合わせをしているようです。
「この前、由香ちゃんに、このお財布とパスケース褒められちゃったんだ!」
「このフローラルプリント、見てると癒されてお守りみたい!」
嬉しそうに語る楓を見て、プレゼントが成功して良かったなと心から思いました。
これから続いていく、楓の中学校での日々。
きっとあっという間だろうけれど、辛いことや悲しいことがあったときは、傍で力になってあげたい。
「よし、私も今日一日頑張ろう!」
楓とお揃いの財布を手に、夕食の買い出しへと家を出ました。
この財布を見ていると、楓と繋がっているような気持ちになる。
私にとっても、これは元気が出るお守り。
やっぱり、プレゼントは大成功だったみたいです。