卒業~お弁当が紡ぐ母と娘の感謝の気持ち

卒業~お弁当が紡ぐ母と娘の感謝の気持ち 5 1

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このサプライズに使用されたアイテム

娘へ最後のお弁当作り

朝5時半に起きて、キッチンに向かって手際よくお弁当を用意する――今年でもう10年以上になる私の日課です。

建設業の現場監督を務める主人と、高校生の娘・有紀の毎朝のお弁当作り。
決して豪華な中身ではないけれど、栄養に偏りがないか、一週間のメニューに重複がないかなど、私なりに二人の健康を気にしながら試行錯誤して作り続けてきました。

そんなお弁当作りも、明日でひと区切り。
有紀が高校の卒業式を迎えるのです。春からは家を出て東京の短大に通うので、私の作る有紀のお弁当は、今日で最後になります。

鮭の塩焼きを2切れと、少し甘口のだし巻き玉子、具だくさんの炊き込みご飯……有紀のお気に入りメニューをひとつずつ、お弁当箱に詰めていく。

曲げわっぱのお弁当は、見た目は少し地味だけど長持ちするからと、数年前に主人と一緒に揃えたものでした。
こうして改めて見ると、なかなか年季が入っているなぁ、としみじみ。

このお弁当箱を空にして、帰宅後「ごちそうさまー」と渡してくれる当たり前の日々が今日で終わってしまうのか……娘の成長の嬉しさと流れる月日の早さに、少しだけ、目頭が熱くなりました。

冷たくなったお弁当

その日、有紀はなかなか帰って来ませんでした。
いつも18時には帰宅するのに、何の連絡もなく、気づけばリビングの時計の針は21時を回っていました。

帰宅途中で何かあったのだろうか、変なことに巻き込まれていなければいいけれども……携帯を手にしたその時、玄関のドアが開きました。

「ただいまぁー。ごめーん、クラスのみんなでカラオケに行ってたー」

気の抜けた声と共に、有紀が入ってきました。

「心配してたんだよ、連絡くらいくれたら良かったのに」
(明日卒業式だから、お友達と最後の思い出も作りたいものね……)
咎めたくなる気持ちをセーブして、心の中でひと呼吸置きます。

「あとごめん、お夕飯いらない」
「え?」
「お昼お弁当食べ損ねちゃって残ってるから、それお夕飯替わりに食べるよ」

心の中を、すーっと冷たい風が通り抜けました。
高校生活最後の昼食、気が置けない友達との団らんのひととき、有紀の好きなもので彩られたお弁当の出る幕はありませんでした。

一日中鞄の中で冷え切ったであろうお弁当を、自宅の食卓で黙々と食べる娘。
その背中を見ながら、「仕方ない。これで有紀のお弁当作りは、卒業」と私は心の中で唱えました。

そして迎えた卒業式

卒業式当日は、どこまでも広がるような澄み切った冬空でした。
卒業式は厳かに行われ、一人一人卒業証書を渡されるシーンでは、一緒に出席した主人は有紀の番で涙を拭いました。

帰り際、
「ねぇ、正門で写真撮ろうよ! こういう時くらい」
と有紀が声を掛け、何年かぶりに家族三人の集合写真を撮りました。

写真がどうしても苦手な私を横目に、「お母さん、ちゃんと笑ってね!」と有紀から声が飛びます。
「はいはい」と返事をしていると、カメラマン役を買って出てくれた保護者の方が、「いくよー、卒業おめでとう!」とシャッターを切りました。

有紀が高校を卒業したんだ。
春からは、家を出て東京へ行く。

心の中で寂しさがじわじわと実感を伴って押し寄せていました。

娘からのサプライズプレゼント

「お天気が良いから二人でピクニックに行こうよ」

有紀から誘われたのは、それから数日後のこと。
上京のための荷造りも整い、ひと段落したので、私たちは二人で近くの公園にお弁当を持ってピクニックに行きました。

これが本当に最後かもしれない、と思いながら作ったお弁当を出して開けると、有紀はとても嬉しそうに「私の好きなものばかりだ!」と喜んでくれました。

そして、少し照れくさそうな顔をして、
「実は私も、お母さんに渡したいものがあるの」
と、ごぞごぞとリュックから箱を取り出し、私に差し出しました。

両手に収まるくらいのその箱を有紀から受け取ると、「いいから開けてみて」と催促する声。

開いてみると、バラやカーネーションなどの可愛らしいソープフラワーが、優しい香りと共に詰まっていました。
そして、蓋の裏側には、卒業式の帰りに撮った家族写真が。

「……本当は今日、私からお母さんに、ありがとうの気持ちを込めてお弁当を作ってあげたかったの。
でも、私料理下手だからさ。ずっと毎日お弁当を作ってくれたお母さんに、何かお返しがしたかったんだ。
これは、私からの感謝の気持ち。受け取ってくれる?」

こみ上げてきた想いで言葉に詰まりながらも、私は笑顔で、
「もちろんだよ、ありがとう!」
と返しました。

「でもさ、来月から私一人暮らしで、料理なんとかなるかなぁ。心配だよ」
神妙な顔つきで悩む有紀が可愛らしくて、私は「大丈夫、大丈夫」と有紀の頭を撫でました。

「ご飯に困ったら、また私がお弁当作って有紀の家まで届けてあげるよ。とびきり大きいお弁当をね」
私の言葉に、有紀は「そっか、その手があったか!」と大きく笑いました。

私の娘へのお弁当作りは、もうしばらく続きそうです。

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