妹が大学を卒業します。
春。
桜の蕾はまだ小さく、ピンク色の綺麗な花が開くのはもう少し後。

私には、3つ下の妹がいます。
名前は、めぐみ。
わがままで、甘ったれで、生意気。
家で顔を合わせても、なんだかいつも不機嫌そうに、空返事をするだけ。
だけど、私が就職して家を出る時は、
「姉ちゃんがいなくなるのは寂しい……」
なんて、ぼそっと言って。
結局、可愛くて大好きな妹。
そんな妹が、この春大学を卒業して就職します。
仕事は営業事務。
「めぐみも、もう二十歳を過ぎてるんだから、自分のことは自分でなんとかするでしょ」
と放任主義の母は言いますが、
『なんでもすぐ途中で投げ出してしまうような子が、きちんと働いていけるのだろうか……』
と姉心に心配しています。
ただ、母の話では、就職活動も一生懸命頑張っていたみたいだし。
たまに実家に帰った時に話してみると、昔よりは大人になったかな、と思う瞬間もあります。
卒業式の翌日。
当日は、仕事があって家には行けませんでしたが、母が妹の写真を送ってくれました。
袴姿に花束を持って、楽しそうに写っています。

朝、実家に着いて、起きてくる妹を待ちました。
前日は、謝恩会の後も仲良しの友達と遅くまで出かけていたようで、起きてきたのは昼前。
眠そうな目をこすりながら、リビングに入ってきました。
「おはよー」
私が声をかけると、
「あれ? 姉ちゃん、来てたの?」
そうそっけなく言いながら、コップに牛乳を注いでいます。
私は、荷物から買ってきたドーナツを出して、妹に渡しました。
「卒業おめでとう。
はい、これ朝ごはんにどーぞ」
「わ! これ、私の好きなやつじゃん!
ありがとー!」
好物を差し出され、さっきのそっけない態度はどこへやら。
早速、ドーナツにかぶりついています。

「謝恩会、楽しかった?」
「うん。写真見る?」
ドーナツを口に頬張りながら、スマホでライブラリを開いて、私に差し出します。
我が妹ながら、袴姿やドレスがよく似合っています。
楽しそうに写る妹の姿を見て、私も嬉しくなりました。
あっとゆう間にドーナツをたいらげた妹にスマホを返して、仕事のことを聞いてみます。
「就職先、どんな感じ?」
「うん。とりあえず、入ってすぐは研修だって。
その後、部署に振り分けられるみたい」
「そっかー」
話ながら、ごくごくと牛乳を飲み干す妹。
飲み終わってから、ふいに話はじめました。
「実はさ、ちょっと不安なんだよね。
私って、なんでも長続きしないじゃん。
ちゃんと働いていけるかなー、って」
お! ちゃんと自分のこと分かってんだな!
なんて、感心しながら、話を聞きます。
「就活中もさ、なかなか決まらなくて。
自分ってダメだなー、とか思う瞬間ばっかだったし」
「そっかー。
でも、頑張って今の会社に就職したんでしょ。
ちゃんと、やり遂げてるじゃん」
「うん、まぁ。友達も励ましてくれたし」
「新しい環境に馴染むまで大変だと思うけど、
大丈夫。以外となんとかなるもんよ」
「うーん……。そうだよねー……」
そんな歯切れの悪い返事をする妹に、私はひとつの袋を差し出しました。
就職祝いのサプライズプレゼント。
「これ、何?」
「就職祝い」
そう言いながら、にんまりと笑顔を向ける私。
「え? 嘘!
ありがとー!
開けていい?」
「もちろん!」
そう言いながら、袋からプレゼントを取り出す妹を見守ります。

中から出てきたのは、マイケル・コースのトートバッグ。
働く中で長く使って貰えるものを、と思い、選びました。
「わぁ、可愛い!
ありがとう。」
そう言いながら、嬉しそうな妹を見て私も胸の中があたたかくなりました。
「社会人になるって、いろいろ不安なことや大変なこともあるけどさ。
めぐみなら大丈夫だよ。
困ったら、いつでも姉ちゃんに相談しな」
「…… うん。
頑張るね!」
そう言いながら妹は、にんまりと嬉しそうに笑いました。
プレゼントしたバッグを肩にかけて、
「似合う?」
といいながら、鏡の前へ駆けていく妹。
姉ちゃんは、可愛い妹がまたひとつ大人になって、とっても幸せです。