今日は、成人式。
娘のまどかも去年の11月に二十歳の誕生日を迎え、晴れやかな振袖を着て、嬉々としています。
式の日の夕方。
孫の晴れ姿を見たいと、父と母がやってきました。
おじいちゃん、おばあちゃん子の娘も、自慢の振袖姿を見せたい、と着替えずに待っていました。
「まぁ!まどかちゃん、綺麗にしてもらったんねぇ。」
母は、家に着くなり玄関まで迎えにきた可愛い孫の姿を見て、嬉しそうに言いました。
その後ろで、父も目尻がすっかり下がっています。

「おじいちゃん、おばあちゃん!一緒に写真撮ろう!」
そう言って、父と母の手を引き、家の中へと招き入れます。
しばしの写真タイムの後、父は、絶え間なく続く女性陣の会話の中から逃れ、私の座るダイニングテーブルへと腰を下ろしました。
「まどかちゃんも、もう二十歳かぁ。早いなぁ。」
「そうだね。」
「…」
「…」
男通しなのでそれ以上の会話もなく、高い声で話し続ける母と妻、娘をただ眺めていました。
私は、ダイニングの隣にあるキッチンへと進み、棚からおつまみを、冷蔵庫から缶ビールを2本取り出して、テーブルの上に置きました。
「お祝いだから。」
そう言ってビールを父に手渡し、二人で口を開けて軽く缶を合わせました。

父とビールを飲みながら。
おつまみの柿の種を口に入れ、ビールを喉に通します。
女性陣を眺めながら、ぽつ、ぽつと話をします。
「仕事は順調なんか?」
「あぁ、ぼちぼちだよ。」
「まどかちゃん、就職とかどうするんかね。」
「本人の好きなようにしてもらったらいいと思ってるよ。」
「…」
「…」
そんな風ないつもの雰囲気の中、私はある思いを抱いていました。
娘が二十歳になり、いよいよ大人の仲間入り。
誕生日の日に娘から、
「今まで大切に育ててくれて、ありがとう。」
そう言われて、涙が出そうになるのをぐっとこらえながら、優しく素直に育ってくれた娘に感謝するとともに、嬉しさをかみしめました。
自分が成人した時のことを思いだすと、父と母に何か感謝を伝えるでもなく、いつも通りのそっけない態度をとっていたことを思いだします。
子どもが生まれ、その子を育て、見守る楽しさ、大変さ。
いろいろなことを感じた20年間でした。
あの頃の父と母を思うと、今の自分でもこれからの自分でも、一生かないそうにありません。
それほどに、家を守るということが大変で、偉大なことだとしみじみと感じています。
娘が二十歳になった今、あの時伝えられなかった気持ちを父に伝えたいと思いました。
が、気恥ずかしくて、なかなか言い出せず、酒の力を借りてもまだこの有様……。
見かねた妻が、近寄ってきて声をかけます。
「パパ。部屋からアレ、取ってきてちょうだい。」
缶ビールを口に運ぶ私に目配せしながら、にこにことそう言う妻。
「あ、あぁ…、分かった。」
そう言って、寝室へと向かいました。
あの時言えなかった感謝の気持ちを。
部屋に戻り、包みを手に取りました。
意を決してリビングに戻り、父の前にそれを差し出します。
「父さん、これ。」
「ん?」
誕生日でも記念日でもない父への突然のプレゼント。
困惑の表情で迎える父へ、なんとか言葉を紡ぎます。
「まどかが生まれて、大人になって。親って大変なんだな、って思った。
今まで言えなかったけど、ここまでこられたのは父さんと母さんのお陰だから。
これ、感謝の気持ち…。」
そう言って、プレゼントを受け取るよう、父へ促します。
突然の言葉と贈り物に、父は驚きながらも私の言葉をしっかりと受け止め、
「あぁ、うん…。
ありがとう。
……頑張れよ。」

そう言って、照れくさそうな顔でプレゼントを受け取りました。
サプライズプレゼントの中身は。
私のサプライズを知っていた妻と娘は、にやにや、いや、にこにことした表情で一連の流れを見届けました。
「おばあちゃん、お父さんからプレゼントだって!
開けてみて!」
そう言って、母を父の元へと連れてきて、プレゼントを開けてみるように言いました。

包みを開けると、そこにはカメラが入っていました。
最近、夫婦で旅行に行くことが多くなった両親へ、妻と娘に相談しながら決めたプレゼントです。
旅先で母が使うことも考え、コンパクトなミラーレスカメラにしました。
あとは、見た目が娘の好み、というのもあります。笑
「旅行に行ったら、たくさん写真を撮って見せに来てね。」
孫の言葉に、父も母もその気になったようで、
「うんうん。いっぱい撮ってくるからね。」
と言いながら、また会話に花を咲かせています。
二十歳の時は言えなかったけど、歳をとった今なら言えるはず。
なんて、思ったけど、やっぱり改めて伝えるということは気恥ずかしいものです。
私の背中を後押ししてくれた、妻と娘に感謝すると共に、父と母にはいつまでも元気で長生きして欲しい、と改めて感じたサプライズでした。