もうすぐ70歳になります。
子供たちも立派に育ち、4年前には待望の初孫もできました。
元気な男の子で、名前は司(ツカサ)です。
かわいい孫ですが、どうも私に懐いてくれません。
妻が言うには、
「じぃじは、顔が怖い」
と言っているようです。
娘も、「お父さん、もう少し笑って」と言ってきますが、私はもとよりこんな顔…。
どうしようもできない、と思いながらも、かわいい孫から嫌われているのは、とても悲しいです。
ある日、娘と孫が遊びにきました。
妻と3人で楽しそう遊んでいます。
私は、少し離れたところに座って本を読むふりをしながら、そちらの様子を伺っていました。
すると、娘が妻に、
「今度、保育園で夏祭りがあるんだけど、お母さんたちもおいでよ。」
と言っているのが聞こえました。
妻は嬉しそうに、返答して、
「お父さんも行くでしょ?」
と私に声をかけてきました。
「………。
行っていいんか?」
そう妻に聞き返すと、
「ツカサに聞いてみたら?」
と返ってきました。
嫌われている私は、ツカサと距離を取るようになって、ますます仲良くなる機会をなくしていたので、事ある後にツカサに話しかけるように妻から誘導されていました。
私は、しぶしぶツカサの近くに進み、声をかけました。
「ツカサ…。」
ツカサは娘の服をぎゅっと握って、少し距離を取りながらこちらを見つめ返してきます。
「じぃじも、ばぁばと一緒に夏祭りに行っていいかな?」
……
……

無言のまま見つめあい、そのまま娘に抱き着いて顔が見えなくなってしまいました。
私は、さらに落ち込んで、自分の部屋に戻りました。
数日後。
娘と孫がまた遊びにきました。
私は、いやがられるといけないと思い、その日は部屋に居ました。
すると、妻が居間から呼びかけてきました。
「お父さーん!ちょっと来てー」
もう、なんなんだ。
私は読んでいた本を閉じて、部屋から居間に向かいました。
居間に行くと、ツカサが私に向かって駆けてきました。
その手には、箱のようなものを持っています。

「ツカサからだよ。受け取ってあげて。」
娘に言われるがまま受け取ると、ツカサはダッシュで母親の元に戻ってしまいました。
その背中から、こちらの様子を伺っています。
ツカサがくれた箱は、ハンドバッグのような形をしていました。
開けると、紙で作られた手作りのポシェットのような物が入っています。
「それ、お財布なんだって」
妻が横で覗き込みながら言っています。
手づくりのお財布を開けてみると、「だがし」「わなげ」などと書かれたカラフルな色紙が入っていました。
「じぃじ。おまつり……行こう……。」
ツカサが娘の後ろから小さな声で、つぶやきました。
「それね、夏祭りで使う券なの。お財布も。
じぃじにあげるんだ、って言って、一生懸命作ったんだよ。」
娘からの話を聞いて、私は信じられない気持ちでした。
「じぃじと、なかなか上手におはなしができなくて恥ずかしかったんだって。」
妻が横で笑いながら言っています。
ふと、手元の箱に目を向けると、もう1つ紙が入っていました。
開くと、ツカサが描いたであろう似顔絵と、「じぃじ」の文字が書かれていました。

それを見て、私は嬉しくて嬉しくて。
「そうか~、これツカサが描いてくれたのか~。上手だな~~。」
と言いながら、頬がみるみる緩んでいくのを感じました。
「じぃじ。ニコニコの方がいいよ。」

ツカサが傍まで寄ってきて、こちらに向かって笑いかけてくれています。
今思えば、ツカサが赤ちゃんの頃、抱っこして泣かれて以来、いつもツカサに触れる時も話しかける時もびくびくしていたように思います。
顔も強ばっていたのでしょう。
笑顔を向けるかわいい孫に、さらに顔がほころんで、きっと恵比寿様みたいになっていたと思います。
夏祭りの日。
ツカサが作ってくれた財布を首にぶら下げて、ツカサに手を引かれながら、駄菓子コーナーや輪投げコーナーを回りました。
娘家族と妻と私、5人で記念写真も撮りました。
妻が言うには、その日は今まで見たことないほどの笑顔だったそうです。
手作りの財布と似顔絵、ツカサがくれたハンドバッグのボックスは、夏祭りの時の写真を貼って飾っています。
もうツカサに「顔が怖い」なんて言われないように、いつまでも、ニコニコじぃじで居ようと思います。