玄関から続く部屋にバラまかれた謎のハート型付箋
「帰ったよー。ただいまー!」
彼が仕事を終えて帰ってきました。
『おかえりー!』
夕ご飯の支度をしていた私は、キッチンから大きめの声を出して彼に呼びかけます。
そして耳をすましていると、「え!? これは何だろう……」と彼のつぶやきが聞こえてきました。
「ねぇ、莉子これ何? こんな小さい紙が廊下にいっぱい落っこちてたんだけど」
リビングに入ってきた彼が手に持っているのは、1枚のハート型の付箋です。
『ふふふ、それ何だと思う? 落ちてるその付箋を拾いながら辿っていけば、もしかしたらいいことがあるかもしれないよ~!』
「いやいや、結構な枚数落ちていたよ(笑)。もー、仕方ないなぁ。ほんとにいいことがあるんだな!? よし、じゃあやってやろうじゃないか」
私が彼に仕掛けたバレンタインサプライズのスタートです!
“昔のようなラブラブな気持ちを思い出そう作戦”を計画!
彼の名前は、亮ちゃん。
私たちが出会ったのは、大学時代のサークルがきっかけで、付き合いだしてかれこれもう5年以上です。
昔は亮ちゃんと過ごす時間は何もかも新鮮だったし、周りからもラブラブカップル公認でした。
けれど5年経ったいまはお互いのことをよく熟知しているし、当時とはまた違って一緒にいてやすらげる存在に。
社会人になったし、私たちも大人になった証ですよね(笑)。
もちろん、亮ちゃんへの好きの気持ちは昔と変わらないままですよ。
そんな亮ちゃんと過ごすバレンタインも、今年で5回目。
『今年はどうしようかなぁ? そういえば、初めてのバレンタインは料理苦手なのに張り切って手作りしたっけ。長文の手紙も添えたりしちゃって。あぁ、何か懐かしいなぁ』
昔のバレンタインの思い出が蘇ります。
対して、ここ最近のバレンタインは仕事で忙しいのを理由に、百貨店で買ったチョコレートを渡すだけ。
亮ちゃんはそれでもいつもとても喜んでくれるのですが、昔のバレンタインと自分の温度差を感じて、何だか少し申し訳なくなってきてしまいました。
『よし、今年のバレンタインは“昔のようなラブラブな気持ちを思い出そう作戦”を決行しよう! 亮ちゃんが驚くようなサプライズを仕掛けていつも以上に喜んでもらうぞー!』
こうして、バレンタインに向けて私は準備をスタートさせたのでした。
ハート型付箋が示すバレンタインチョコ&プレゼントの在り処
今年手作りチョコレートに挑戦するのは決定済みです。
けれど、それだけだとサプライズとしてはインパクト不足……。
『何かいいサプライズ方法はないかな』
こんなとき便利なのは、やっぱりネットです。
調べてみるとたくさんのサプライズ方法が出てきましたが中でも多かったのは、宝探しゲームに見立てたサプライズ法です。
プレゼントを部屋のどこかに隠して、クイズやヒントをもとに場所を探しだしてもらうというもの。
『これはちょっとおもしろいかも。私だったらどこに隠すかな?』
バレンタイン当日亮ちゃんはお仕事らしいのですが、合い鍵をもらっていていつも亮ちゃんの家で会うことが多いので、恐らく隠すとなれば亮ちゃんの自宅です。
亮ちゃんの家の中を思い出しながら、「やっぱり寝室のクローゼットの中かなぁ」と目ぼしい場所を考えてみます。
そして場所を決めたら、次はその場所を示すヒントを用意しなければなりません。
これがなかなか難しく……。
どうしようか数日悩んでいたのですが、仕事中デスクに向かっているときにふと目についたのが“付箋”でした。
私は仕事のモチベーションを上げるため、ノートや付箋もかわいいものを選ぶようにしています。
『これをペタペタ廊下に貼り付けて、クローゼットまで誘導できるよう道筋を作ってみたらおもしろいかも!』
早速、帰りの電車の中でかわいい付箋をリサーチ。
バレンタインにぴったりなハート型の付箋を見つけて、購入手続きを済ませました。
また、今年は何かプレゼントも用意したいと思っていました。
というのも、私はチョコレートしかあげていないにも関わらず、亮ちゃんはいつもホワイトデーに素敵なプレゼントをお返ししてくれていて……。
いつも私好みのものを選んでくれる亮ちゃんは、私にはもったいなさすぎるほどの素敵な彼氏です。
そんな亮ちゃんへのプレゼントは、前からこれをあげたいと決めていました。
それは、“Chairbag(チェアバッグ)”という名の鞄です。
チェアバッグはその名の通り、チェアとしても使える2WAY仕様のトートバッグ。
見た目はシンプルでとてもおしゃれな鞄なのですが、3秒でチェアに早変わりするという優秀さ。
初めてこの鞄の存在を知ったとき、『こんなものがあるんだ!』と衝撃だったのですが、きっと亮ちゃんも驚くはずです。
それに、撥水・防汚加工で収納力も抜群なので、釣りや音楽フェスなどにもよく行く亮ちゃんにぴったりだと思いました。
バレンタインまでに配送が間に合うことを確認して、この鞄も購入手続きを完了させます。
『亮ちゃん、どんな反応を見せてくれるかなぁ~』
バレンタインが待ち遠しくなりました。
付き合い始めのようなドキドキが味わえたサプライズに
バレンタイン当日です。
サプライズ準備のため、亮ちゃんの帰宅時間より少し早めに到着。
チョコレートは朝自分の家で作って準備を済ませてきました。
そして用意しておいた鞄の中に、ラッピングしたチョコレートを入れてクローゼットの中へ。
あとは玄関からクローゼットまでの道筋に、ハート型の付箋をペタペタと貼り付けていくだけです。
事前に用意しておいたおかげで、サプライズの下準備はスムーズに終えられました。
あとは、今日の夕ご飯を作って亮ちゃんを待つのみです。
ガチャ。
「帰ったよー。ただいまー!」
亮ちゃんが帰宅しました。
『おかえりー!』とキッチンから声をかけてすぐ、「え!? これは何だろう……」とボソッとつぶやく亮ちゃんの声が聞こえます。
「ねぇ、莉子これ何? こんな小さい紙が廊下にいっぱい落っこちてたんだけど」
亮ちゃんが付箋を拾ってリビングへと入ってきました。
亮ちゃんはとても不思議そうです。
『ふふふ、それ何だと思う? 落ちてるその付箋を拾いながら辿っていけば、もしかしたらいいことがあるかもしれないよ~!』
「いやいや、結構な枚数落ちていたよ(笑)。もー、仕方ないなぁ。ほんとにいいことがあるんだな!? よし、じゃあやってやろうじゃないか」
腕まくりをしながら、玄関へと戻り付箋はがしに取り掛かり始めた亮ちゃん。
私はニヤニヤが止められないまま、そんな亮ちゃんの姿を見守ります。
数分後。
亮ちゃんはすべての付箋をはがし終わって、クローゼット前へと到着しました。
「ここに何かあるの?」
そう言いながら亮ちゃんはクローゼットの扉を開きます。
「あ、何かプレゼントがある! これって……。もしかしてバレンタインのプレゼント?」
『へへへ、そうだよ! 開けてみて』
私の言葉に促され、亮ちゃんはラッピングをはがし始めました。
「わ、これ鞄!? めっちゃかっこいいじゃん。これは嬉しい!」
『これ、実は椅子にもなるんだよ。そこに座れるの!』
「うわ本当だ! 俺の体重でも安定してるよ。これすごいんだけど!」
目を真ん丸にして、亮ちゃんは驚いています。
そしてバッグを眺めながら、チャックに手をかけました。
「ん? これは……」
ようやく、鞄の中に隠しておいたチョコレートの存在にも気がついたようです。
『今年はチョコも頑張って作ったよ!』
「えー! そうなの!? バッグもすごく嬉しいけど、手作りチョコも同じぐらい嬉しい……!」
かわいい反応を見せてくれる亮ちゃんに、思わずキュンとしてしまいます。
けれど実はサプライズがもう一つ。
『さっきの付箋、裏側に気がついた?』
「え? あ! メッセージが書いてある」
『私が思う、亮ちゃんのいいところを書いてみたんだ』
「この付箋全部に書いたの!? ちょっと驚くネタがたくさんありすぎて嬉しいの感情が追い付かないわ(笑)。でもほんとにうれしい! 色々考えて用意してくれてありがとう」
そう言いながら、ギューっとしてくれた亮ちゃん。
これは予想外!
いきなりのハグに、私の心臓はドキドキが止まりません。
亮ちゃんのために仕掛けた“昔のようなラブラブな気持ちを思い出そう作戦”は、私にも効果てきめんでした(笑)。
亮ちゃんの喜ぶ顔が見られて私も大満足!
亮ちゃんにギューッとされながら、『来年のバレンタインもこんな亮ちゃんが見たいから、また第二弾を頑張ろう』とひそかに誓ったのは言うまでもありません。