何気ないデートの中で仕掛けるクリスマスサプライズ
「ごめんね、お待たせ! お手洗い結構混んじゃってて」
『ううん、全然。じゃあそろそろお店出ようか』
「うん、そうだね! 今からどこに行こっか?」
今日は、彼女のみずきと少し早めのクリスマスデートに来ています。
といっても、ウィンドウショッピングを楽しんだり、途中でカフェしたりするという僕たちの普段とあまり変わらないデートコースです。
今も歩き疲れて途中でカフェに入り、休憩していたところでした。
そしてこのあとの予定もまだ何も決まっていません。
けれど、そう思っているのはみずきだけというのを当の本人はまだ知りません。
みずきは、コートを羽織って、店を出る準備をしていました。
すると、「え、これ誰の携帯?」とテーブルの上に置かれた携帯に気づきます。
実は、これは僕がみずきにバレないように仕掛けたもの。
みずきを驚かしたくて1週間前から考えていたサプライズのうちの1つなのです。
付き合って3年目で彼女へ初めてのサプライズを計画!
みずきと迎えるクリスマスは今年で3回目です。
ですが、僕の仕事はいつもクリスマスから年末にかけてが繁忙期。
この時期に限っては残業続きで帰宅時間も遅くなるため、2年前も昨年のクリスマスもみずきがクリスマスディナーを作って僕の自宅で待ってくれていたのでした。
それにプレゼントを選ぶというのも僕は苦手で、後日みずきと一緒に買いに行ったので、実際クリスマスっぽいことはこれまで何もしてあげられていません。
そんな背景もあり、今年はみずきにクリスマスらしいことをしてあげたいなとぼんやり考えていました。
そこで少し前に、
『クリスマス当日は難しいけど、今年はその数日前なら休みもらえそうだし日帰りでどこか出かけたりしてみる?』
と提案してみたのですが……。
みずきは、
「けんちゃん仕事忙しいし、無理しないで。それにけんちゃん人混み苦手でしょ。いつもみたいに会えるだけで十分だから、また仕事落ち着いてからにしよう」
と言うのです。
みずきはいつもこういうとき、自分の気持ちより僕のことを気にかけてくれます。
そんなみずきの姿を見て僕は決めました。
『今年のクリスマスは彼氏らしく、みずきが喜んでくれるようなサプライズをしよう!』
本命プレゼントに見せかけて実はもう一つ!?ダミープレゼント作戦
とは言いつつ何をすればいいのか具体的な案が浮かばないまま、みずきと約束しているクリスマスデートはもう1週間後に迫っていました。
いつもギリギリにならないと動き出さないのは、僕の悪いところです。
『まずはデートのときに行く場所を決めないと……!』
こういった情報に疎い僕は、スマホを頼りに近隣のデートスポットをリサーチします。
すると、ちょうどみずきが付き合いたてのときに行ってみたいと言っていた遊園地でクリスマスのイルミネーションイベントをやっているとの情報が。
もともと出不精で人混みが苦手な僕はテーマパーク系が苦手で避けてきたのですが、今回ばかりは僕が一肌脱ぐ出番。
しかもみずきと会う日はクリスマス当日ではないため、まだチケットも間に合いそうです。
そのまますぐにチケット購入手続きを済ませました。
けれどこれで準備完了ではありません。
今年はプレゼントも事前に用意してみずきをさらに驚かせたい!
これまでクリスマスだけでなく誕生日プレゼントもみずき自身に選んでもらっていたので、きっと今年もそうなるとみずきは思っているはず。
そこを狙って、もう一つサプライズをしようと考えたのです。
プレゼントについては、もう目星はついています。
つい先日みずきは新しいスマホに買い替えたばかりで、スマホケースも一新したいと話していたのを覚えていました。
なので今回のクリスマスプレゼントはスマホケースにするつもりです。
ネットでスマホケースも見ているとたくさんありすぎて悩んでしまったのですが、その中でもとても素敵なデザインのものを発見しました。
アンティーク感のあるレザーを使ったスマホケースなのですが、中央部分に本物のガラスを使ったステンドグラスがデザインされているので高級感もあってプレゼントにもよさそう。
しかも、ケースを開いた左部分にはカード入れもたくさんついています。
そして、これを見たときピンと来たのです。
このカード入れの部分に、今回手配したチケットを入れて渡せばさらに驚くはず!
普段プレゼントすら用意してこなかった僕なので、ダミーではありませんがスマホケースがメインのプレゼントだと思い込み、ほかにもう一つあるとはきっと考えないと思ったからです。
注文日も1週間以内に届くことを確認して、僕は急いで注文を済ませました。
クリスマスデート当日!いよいよサプライズを実行へ
約束のクリスマスデート当日。
もちろん今日はサプライズのため、みずきにイルミネーションを見に行くことは伝えていません。
みずきはいつも通り街をプラプラして途中でお茶して僕の家でご飯を食べるいつものデートを想像しているようで、合流してから自然な流れでウィンドウショッピングを楽しみ始めました。
そして2時間ほど経った頃。
『そろそろどこかのカフェでちょっと休憩しようか』
と僕はさりげなくみずきをカフェへと誘いました。
これもサプライズの計画のうちの一つです。
コーヒーを飲みながら、最近あったことや仕事がどうとかお互いの近況報告をしあうのがいつもの感じなのですが、サプライズがうまくいくか気になる僕は少しソワソワ。
でもそれを悟られないよう冷静を装います。
しばらくまったりとした時間を過ごしていたのですが、日が落ちかけているのを見てみずきは、
「もうこんな時間だ。お店出る前にちょっとお手洗いだけ行ってくるね」
とトイレへ向かいました。
実はサプライズ実行のためこのタイミングをずっと見計らっていた僕は、トイレに行ってくれなかったらどうしようと内心とても焦っていたのです。
僕はみずきがトイレに向かったのをしっかり確認して、素早く準備し始めます。
自分のバッグの中に潜ませていたプレゼントのスマホケースを取り出し、テーブルに置かれていたみずきの携帯にすばやく装着。
あとは心を落ち着かせて、みずきが戻るのを待ちます。
数分後、「お待たせ!」と戻ってきたみずき。
その時点ではまだ携帯の存在には気づいていないようでしたが、コートを羽織って席を立とうとしたときに、「え、これ誰の携帯?」とようやく携帯に気がつきました。
何も答えず黙っている僕にみずきは不思議そうな顔をしながら、スマホケースを開いて中を確認しています。
「ん? これ私の携帯じゃん! どういうこと!?」
驚いた表情をみせるみずきに、ここで僕からのネタ晴らしです。
『ちょっと早いけどこれは僕からのクリスマスプレゼントだよ。こないだ新しいスマホケース欲しいって言ってたからさ』
「これけんちゃんからのプレゼント? けんちゃんが選んでくれたの? えー嬉しい! ありがとう。それにこのスマホケース、すごくおしゃれで素敵!」
みずきはスマホケースを気に入ってくれたようで、ステンドグラス部分を照明に当てたりしながら「きれいー!」と喜んでいます。
そして中を再び開いたとき、「あれ? 何か入っている……」とカード入れにも気が付きました。
「けんちゃん、このチケットももしかしてプレゼントなの?」
『そうだよ。今からみずきと行きたいと思ってさ』
「うそ……。今からここに行けるの? サプライズも人混みも苦手なけんちゃんが、いつの間にこんなジェントルマンなことができることになったの? 私の知っているけんちゃんじゃないからとまどっちゃうよ(笑)」
口に手を当てて照れた仕草を見せるみずきを見て、僕まで少し恥ずかしくなってきてしまいました。
でもその表情からは喜んでくれているのが伝わります。
その後カフェを出た僕たちは、日の暮れた遊園地へと向かいイルミネーションをたっぷり堪能。
夜は僕の家でみずきと一緒に料理を作って、クリスマスディナーを楽しみました。
その間もみずきはスマホケースを嬉しそうに何度も眺めていました。
みずきと付き合って3年目ですが、今回初めてちゃんとクリスマスにカップルらしいことをできた気がします。
そして何よりもみずきの喜ぶ姿を見られてよかった!
こういったことは本来苦手な分野なのですが、みずきがこんなにも喜んでくれたので、来年もクリスマスぐらいはまたサプライズを頑張ってみるのもありかなとひそかに思った僕でした。